国際ロマンス詐欺・SNS型投資詐欺の被害回復(1)本人編

東京弁護士会による国際ロマンス詐欺に関する注意喚起について

東京弁護士会の非弁提携弁護士対策本部が以下の注意喚起をしています。

「国際ロマンス詐欺案件を取り扱う弁護士業務広告の注意点」

「国際ロマンス詐欺案件を取り扱う弁護士業務広告の注意点2」

ご一読になることをお勧めします。

目次

国際ロマンス詐欺・SNS型投資詐欺の急増

国際ロマンス詐欺とは

国際ロマンス詐欺とは、「外国人を装い、SNSを通じて被害者に接近して一定期間交流し、恋愛感情や親近感を抱かせて金をだまし取ったり、一緒に投資をやろうと誘って金をだまし取ったりする」詐欺を言います(東京弁護士会ウェブサイト参照)

国際ロマンス詐欺の特徴は、通常の投資詐欺と異なり、加害者が、被害者へ、投資勧誘目的であることを告げずに近づき、親密になって、ココロのスキマを突くことにあります

そのこともあってか、元々、特に振り込め詐欺の被害者は高齢者中心だったところ、近年、国際ロマンス詐欺の被害が、中高年を中心に、大変急増しています(各種報道参照)

国際ロマンス詐欺の手口の共通点

国際ロマンス詐欺には、複数のバリエーションがありますが、概ね以下が共通しています

加害者と被害者の関係性

・加害者と被害者は、元々の面識が全くない異性である

・加害者は、外国人を自称することが多いが、日本人を自称することもある

・加害者が被害者へ(実際は虚偽の)氏名住所等の素性を明かすことがある

・加害者が被害者へ(実際は他人の)写真等を送り高所得者等を装うことがある

・被害者は、40代~50代が特に多い印象で、性別、既婚未婚、職業学歴を問わない

・被害者は、一定の資産があることが多い(被害金額が数千万円もありうる)

接近過程

・加害者が被害者へマッチングアプリやSNSを通じてメッセージを送る

・LINE等に移行して連日のようにやりとりをするようになる

・加害者が被害者へ悩みを聞いたり優しい言葉をかけたりする

・加害者が被害者へ恋愛感情、将来の交際や結婚等を仄めかす

・やりとりはLINE等のみであり、日本語がところどころ不自然である

・最初から最後まで、実際に会うことはなく、電話で話すこともほぼない

投資詐欺

・加害者が被害者へ結婚資金等の準備のためとして投資を提案する

・被害者は加害者から言われたとおり投資アプリ等を入手するが理解できていない

・加害者は被害者へ投資による利益の大きさや確実さ等を強調する

・試しに少額で始めると利益付きで返金される(撒き餌)

・銀行預金口座送金型と仮想通貨(暗号資産)送金型がある

・送金方法についてLINE等を通じてとても丁寧に教えてくれる

・都度、送金口座に個人や法人の銀行預金口座が指定されて、送金日時も指定される

・被害者は加害者や投資アプリ等から言われたとおりに金銭を送金する

・出金(返金)を希望すると、マネロンや税金に関連付けて、追加送金を求められる

・追加送金してもしなくても、出金(返金)されることはない

被害者本人が行う被害回復の方法

被害者本人が行う被害回復の方法

通常、振り込め詐欺救済法を利用する方法が考えられます

なお、振り込め詐欺救済法とは、正式には「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律」と言います

また、振り込め詐欺に限らず「振込利用犯罪行為」(詐欺その他の人の財産を害する罪の犯罪行為であって、財産を得る方法としてその被害を受けた者からの預金口座等への振込みが利用されたもの)において、「振込みの振込先となった預金口座等」やその資金移転先預金口座等も、「犯罪利用預金口座等」として対象になります

振り込め詐欺救済法 Q&A

https://furikomesagi.dic.go.jp/qa.html

また、振り込め詐欺救済法を利用する方法とは別に、「犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する法律」を利用する方法もありますが、ここでは割愛します(以下参照)

被害回復給付金支給制度:検察庁

https://www.kensatsu.go.jp/higaikaihuku/

法務省:被害回復給付金支給制度 Q&A

https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji_keiji36.html

大まかな流れ

被害者本人の警察等での送金先口座の取引停止措置(口座凍結)の申請

被害者本人による今後の手続や口座残高の把握

被害者本人の金融機関への被害回復分配金支払申請

被害者が金融機関から被害回復分配金を受領する

被害者本人の警察等での送金先口座の取引停止(口座凍結)の申請

被害者本人が、被害者本人の住所を管轄する警察署(交番ではない)へ、電話する

管轄はインターネットでも検索できます

福岡市中央区居住なら、福岡県中央警察署になります

電話で「国際ロマンス詐欺・SNS型投資詐欺に遭ったので口座凍結して欲しい」と伝えて指示に従う

警察の被害者への対応窓口は、刑事2課知能犯係や生活安全課等だと思います

以下を持参して来所するように指示されるかもしれません(参考)

・銀行の窓口やATMの発行の振込控え

・PCやスマホの送金画面のスクリーンショット(印刷したものも)

・(被害者の出金元の口座の通帳)

・LINE等をやりとりしたスマホ本体

・LINE等のやりとりのトーク履歴(印刷してもよいが大量になる)

・(被害者の運転免許証等の本人確認書類や印鑑)

被害者本人が、警察に出向いて、送金先口座の取引停止(口座凍結)してもらう

なお、担当警察官が被害者本人へ協力的かどうかは地域や事案等にもよるようですが、最近では送金先口座の取引停止だけであれば比較的速やかに対応してもらえるようです

(参考1)被害者本人の消費生活センターでの送金先口座の取引停止の相談

被害者本人が警察へ出向くことに抵抗があるのであれば、被害者本人が消費生活センターへ出向いて相談して、送金先口座の取引停止を連絡してもらうことも考えられます

(参考2)被害者本人の送金先金融機関への送金先口座の取引停止の申請

被害者本人が送金先金融機関へ電話して、取引停止を申請することも考えられます

ただし、一定の資料の送付等を求められることがありうるほか、被害者本人が複数の銀行の口座へ送金していた場合、被害者本人は各銀行へ電話する必要がありますし、送金先口座の金融機関の担当窓口の電話番号は、かなり繋がりにくいようなので、大変ではあります

その後の対応について教えてもらう

なお、担当警察官が被害者本人へ電話で、被害者本人から残高が一定程度ありそうな送金先口座の金融機関の担当窓口へ電話するよう、言われることもあるようです

被害者本人による今後の手続や送金先口座の口座残高の把握

振り込め詐欺救済法による手続や取引停止済みの送金先口座の残高を把握する必要があり、被害者本人が送金先の金融機関の担当窓口へ電話したり、被害者本人がインターネットで「振り込め詐欺救済法に基づく公告」を確認したりすることになります

送金先口座の金融機関の担当窓口の電話番号は、被害者本人が担当警察官から教えてもらえることがあるほか、インターネットでもある程度検索できると思います

ただし、金融機関や日時にもよると思いますが、近年の国際ロマンス詐欺・SNS型投資詐欺の被害の急増に伴い、送金先口座の金融機関の担当窓口の電話番号は、かなり繋がりにくいようです

インターネットの「振り込め詐欺救済法に基づく公告」は、インターネットで簡単に検索することができますが、以下のURLのウェブサイトです

振り込め詐欺救済法に基づく公告トップページ

https://furikomesagi.dic.go.jp/

ただし、公告の意味を理解するには手続の理解が必要ですし、送金先口座の取引停止から消滅公告までに1~3か月前後の期間がかかり、実際には公告がなされないこともあります

被害者本人の送金先口座金融機関への被害回復分配金支払申請

被害回復分配金支払申請書等の提出

振り込め詐欺救済法に基づく手続が、送金先口座の取引停止~預金債権消滅公告~預金債権消滅~被害分配金支払申請公告、というふうに進めば、一定期間内(通常は3か月以内)に被害者本人から送金先口座金融機関へ被害回復分配金支払申請書等を提出します

ただし、送金先口座において残高が残っているケースはそれほど多くありません

通常、被害を自覚してから警察等へ連絡するまでに数日以上経過しており、送金から取引停止までに早くても数日以上かかるうえ、そもそも、被害者本人が送金先口座へお金を送金すると、当日または翌日には加害者等が送金先口座から出金することが多いためです

もっとも、他の被害者も当該送金先口座へ送金していることがあり、その直後に取引停止がなされることもあるようで、その場合、加害者等が当該送金先口座から出金することができずに一定程度の残高が残っている、ということもないではありません

また、送金先口座において「権利行使の届出等」があると、手続は中断します

最近は他の被害者からの口座への差押等による中断することもすくなくありません

権利行使の届出等(振り込め詐欺救済法5条1項5号)とは、主に以下の場合です

・送金先口座の口座名義人が金融機関へ預金払戻請求訴訟を提起した場合等

・被害者が金融機関を相手に債権者代位訴訟を提起した場合等

・被害者が裁判所へ申し立てて送金先口座を差し押さえた場合等

被害回復分配金の計算方法

また、送金先口座の金融機関から当該被害者へ送金される被害回復分配金は、取引停止済みの口座の残高について、それが誰の送金を原資とする残高かということは問題とせず、被害者達(被害者達で当該口座へ送金して被害分配申請した者達)で送金額に応じて山分けするという考え方であり、概ね次のように計算されるので、十分とは言えません

【当該送金先口座の取引停止時点の残高】

×【当該被害者が当該送金先座口座へ被害回復分配金申請した金額】

÷【各被害者から当該送金先座口座へ被害回復分配金申請がなされた金額】

=【送金先口座の金融機関から当該被害者へ送金される被害回復分配金】

なお、各被害者が当該送金先座口座へ被害回復分配金申請できる金額は、各被害者が当該送金先座口座へ送金した金額が上限となります

例えば、一連の国際ロマンス詐欺の被害(合計1000万円)において、当該被害者が当該送金先座口座Aへ300万円を、当該被害者が他の送金先口座Bへ500万円を、当該被害者が他の送金先口座Cへ200万円をそれぞれ送金していたとしても、当該被害者が当該送金先座口座Aへ被害回復分配金申請できる金額は300万円が上限になります

また、上記の例を前提に計算してみると、次のとおりであり、一連の被害金額1000万円・当該送金被害金額300万円・回収額50万円となります

【当該送金先口座の取引停止時点の残高】1000万円

×【当該被害者が当該送金先座口座へ被害回復分配金申請した金額】300万円

÷【各被害者から当該送金先座口座へ被害回復分配金申請がなされた金額】6000万円

=【送金先口座の金融機関から当該被害者へ送金される被害回復分配金】50万円

備考・国際ロマンス詐欺・SNS型投資詐欺の被害と税金の処理

税金について心配な場合には、被害者本人にて税理士または税務署へ相談すべきでしょうが、基本的に次のようになると考えられます

まず、被害回復分配金については、通常、課税対象となりません(法務省Q&A参照)

次に、国際ロマンス詐欺における投資の利益について、被害者本人がこれを真実と誤信して税務申告している場合には、後日、更正の請求をすることが考えられます

これに対し、国際ロマンス詐欺における投資の利益について、被害者本人が特に税務申告をしていない場合には、実際にはこれは架空のものであり実体はありませんから、(投資名目の送金を損害として雑損控除等したい場合には被害者本人にて税理士や税務署へ相談した方がよいでしょうが、)通常、税務申告をする必要はないものと考えられます

被害者本人が行う被害回復のメリット・デメリット

費用がかからない

被害者本人が行う被害回復は、被害者本人が弁護士へ依頼して弁護士が行う被害回復に比べて、弁護士費用がかからないというメリットがあります

被害者本人が弁護士へ依頼したからと言って、被害回復ができる保証はないため(特に仮想通貨(暗号資産)送金型はかなり厳しい)、費用対効果が不明です

最近では、報道でもあるように、弁護士が、被害者へ、事案に応じた被害回復の具体的な方法の検討もないまま、一部の成功事例の結果のみを提示する事例もあり、注意が必要です

相応の時間や手間、気力や労力がかかる

被害者本人が行う被害回復は、被害者本人が警察等へ出向くことや、送金先口座の金融機関の担当窓口の電話番号がかなり繋がりにくいこと等から、被害者本人が平日日中は仕事が忙しく、被害者本人が複数の銀行の口座へ送金していた場合には、相応の負担となります

被害者本人として一人で対応することはかなりの精神的な負担もあると思います

被害者同士の回収競争に競り負ける

振り込め詐欺救済法に基づく手続は、速やかに送金先口座の取引停止(口座凍結)ができるという面ではとても簡易かつ強力ですが、差押等の法的手続に劣後するものであり、特に口座残高が一定金額以上の場合、法的手続により中断することもすくなくありません

したがって、口座残高が一定金額以上の場合、法的手続により「権利行使の届出等」がなされて、被害分配金支払手続に進むことなく、口座残高が他の被害者により回収されて、早い者勝ちの独り占めになってしまうことも、それなり起きているようです

悪いのは加害者であり被害者は悪くないのに、口座残高が一定以上となる口座がすくないなか、被害者同士の回収競争となり一部の被害者が一人占めして大半の被害者が一切受け取れないというのは、些か悲しいものもありますが、正当な権利行使でもあります

最近は、私も被害者本人から相談を受ければ、振り込め詐欺救済法より法的手続が優先するという懸念があることをお伝えして、口座残高の調査の上、被害者同士の回収競争に競り負けることのないよう、実際に費用をいただいて訴訟提起や差押等を行うこともあります

備考・国際ロマンス詐欺・SNS型投資詐欺の被害者の弁護士の選び方

被害者の方が弁護士へ相談や依頼を考えているなら、以下に留意すると良いでしょう

  • 弁護士の事務所において、被害者本人が弁護士へ直接面談して1時間相談する
  • 被害者本人が親族へ被害を明かしているなら、面談は被害者の親族の同席が望ましい
  • 依頼する場合、1回目の相談で費用等も聴いたうえで、2回目の面談とする
  • 遠方等であっても、最低でもzoomで相談してお互い顔の見える状況で相談する
  • 時間が許すのであれば、被害者本人が2~3か所の弁護士と面談する
  • 知人の弁護士がいるなら、その弁護士に詳しそうな弁護士を紹介してもらう
  • 事案に応じた具体的な回収方法・回収対象の提案があるかないか確認する
  • 回収方法等が検討未了の場合、調査検討のみを依頼して、費用を抑制する
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