投資と投資詐欺の違い

目次

投資と投資詐欺の違い

そもそも、投資とは

投資の典型例

  • 個人が証券会社を通じて上場企業の株式を購入する
  • 法人が賃料収入のある不動産を購入する
  • 銀行が事業会社に金銭を貸し付ける(融資)

投資の定義

投資とは、将来の利益を期待して、投資者が第三者へ資金を融通することをいいます

投資における投資対象の実在性等

投資対象となる事業や資産は実在しており、事業や資産の生産性(ただし、不確実)があります
そのため、リターンは、有無や程度のリスク(不確実性)はあるものの、実現可能性があります
リスクとリターンは、通常、均衡しており、高い順に、株式>不動産>融資となります

投資に関する法律の例

投資に関する法律は、以下に例示するように、多岐にわたります

  • 出資法
  • 金融商品取引法
  • 金融サービス提供法(旧金融商品販売法)
  • 商品先物取引法
  • 外国為替及び外国貿易法
  • 資金決済法
  • 投資信託及び投資法人法
  • 資産流動化法
  • 不動産特定共同事業法

詐欺とは

詐欺の典型例

実際には商品を渡す意思も能力もないのに、あたかもこれらがあるかのように装って、期限までに商品を送付する等の虚偽告知をして、商品を購入するために代金を支払うことように決意させて、代金名目で金銭を騙し取る

詐欺の定義

詐欺とは、通常、虚偽告知等を行い、錯誤に陥らせ、財産の交付を決意・実行させることを言います

詐欺における取引の実在性等

詐欺においては、財物交付の前提となる事実関係は実在しません
生産性、リターンの実現可能性はなく、確実に金銭を騙し取られるだけです
なお、リターン等と称するものを受け取れることがあります
しかし、それは詐欺の発覚防止や詐欺の追加実行のためになされるものにすぎません

投資詐欺とは

投資詐欺の典型例

実際には事業実体や対象資産がなく資金運用や高額収益の意思も能力もないのに、あたかもこれらがあるかのように装って、高率配当や元本保証等の虚偽告知をして、事業や資産に投資金を投資するように決意させて、投資金名目で金銭を騙し取る

投資詐欺の定義

投資詐欺とは、実際には投資対象の実体がないのに、あたかも投資対象の実体があるかのように装って、虚偽告知等を行い、錯誤に陥らせ、投資金として財産の交付を決意・実行させることを言うことになります

なお、未公開株商法の一部や原野商法等、投資対象が形式的に存在しているだけで、投資対象による収益が実質的に全く見込めないような場合、投資対象の実体があるかのように装えば、投資詐欺と言えるでしょう

投資詐欺における投資対象の実在性等

投資詐欺においては、投資対象の事業や資産は実在しません
生産性、リターンの実現可能性はなく、確実に金銭を騙し取られるだけです
なお、配当等と称するものを受け取れることがあります
しかし、それは詐欺の発覚防止や詐欺の追加実行のためになされるものにすぎません

投資と投資詐欺の違い

根本的な相違・投資対象の実在性

投資においては、投資対象となる事業や資産は実在しており、事業や資産の生産性があり、不確実性があります
投資者は投資において利益を享受して損失を負担しますが、投資対象となる事業や資産において投資金が適切に運用されることを前提としています

これに対し、投資詐欺においては、投資対象となる事業や資産は実在しておらず(あるいは、投資対象が形式的に存在しているだけで、投資対象による収益が実質的に全く見込めず)、事業や資産の生産性がなく、リターンの実現可能性はなく、確実に損失しかありません

投資において、投資対象となる事業や資産の実在性自体は、所与の前提であり、不確実なものではありません
投資対象となる事業や資産の実在性自体が不確実なものであれば、最早、投資詐欺というべきものです

投資/投資詐欺投資投資詐欺
投資対象実在非実在(または形式的)
生産性あり(不確実な損益)なし(確定的な損失)
不確実性の対象結果のみなし(確定的な損失)

無登録営業の位置づけ

無登録営業

ところで、投資詐欺の勧誘においては、「必ず儲かる」等の不当・虚偽の勧誘文言と同様に、無登録営業による勧誘がなされることがすくなくありません

金融商品取引法29条

金融商品取引業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ、行うことができない。

例えば、「業として」株式を購入するよう勧誘すれば、「有価証券の募集若しくは売出しの取扱い」等として、「第一種金融商品取引業」(法28条1項1号、2条8項9号)にあたります

例えば、「業として」収益の分配を受けられるように事業に投資するよう勧誘することは、「みなし有価証券」の「募集若しくは売り出しの取扱い」等として、「第二種金融商品取引業」(法28条2項2号、2条8項9号)にあたります

なお、金融商品取引法2条8項柱書にいう「業として」については、営利性を要さず、反復継続性と対公衆性を要するものと解されています(神田秀樹ほか「金融商品コンメンタール1」〔第2版〕136頁以下[松尾]商事法務2018年)
(注・標記書籍140頁では、「対公衆性」要件は、実務的には、「業として」としてとらえることが社会通念に照らして適当でないと考えられる行為を例外的に除外する機能を有するにとどまる、としている点に注意)

無登録で金融商品取引業を行うと、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処せられます(法197条の2・10の4号)

無登録業者が未公開有価証券につき売付け等を行った場合には、対象契約は無効とされます(法171条の2・1項本文)

無登録営業=投資詐欺か?

では、無登録業者が勧誘すること自体が、直ちに投資詐欺にあたるのでしょうか
結論としては、無登録営業をもって投資詐欺とは捉えない方がよいと考えます

なぜなら、無登録営業であれば、勧誘行為自体が法令違反や不法行為等にあたるものと考えられますが、投資対象である株式(企業)や事業が実在していれば、投資として一応成立するからです

投資詐欺の中核は投資対象が実在しないのに実在するかのように装うことにあり、無登録営業は、投資詐欺のよくある状態ではあるものの、投資詐欺自体とは区別した方がよいでしょう

無登録営業は注意義務違反を基礎づける

とはいえ、無登録営業であるということは、業として反復継続して勧誘したということですから、「厚意で紹介しただけ」等ではなく、勧誘者の被勧誘者に対して負う注意義務を基礎づけることになるでしょう

なお、金融商品取引法は基本的に無登録業者に適用される条文はすくないですが、金融サービス提供法の旧金融商品販売法の各種金式指定は無登録業者にも適用されますので、注意義務を肯定しやすくなります

そして、刑罰規定のある法令違反である無登録営業を敢行しているくらいですから、投資詐欺であることの勧誘者の認識(の可能性)を立証することができれば、注意義務違反も肯定することができるでしょう

「必ず儲かる」「月利5%」「元本保証」等の位置づけ

不当・虚偽の勧誘文言

ところで、投資詐欺の勧誘においては、「必ず儲かる」「月利5%」「元本保証」等の不当・虚偽の勧誘文言を伴うことがすくなくありません

不当・虚偽の勧誘文言=投資詐欺か?

では、「必ず儲かる」等と言って勧誘すること自体が、投資詐欺にあたるのでしょうか
結論としては、勧誘文言自体をもって投資詐欺とは捉えない方がよいと考えます

考えようによっては、実際には利益獲得も利率も元本保証も不確実であるのに、あたかも確実であるかのように装って勧誘したことを、詐欺と構成することは一応可能でしょう
しかし、例えば、「必ず儲かる」「月利5%」「元本保証」等の虚偽・不当な勧誘文言で、証券会社が個人に上場企業の株式を購入させても、投資詐欺とは言い難いと思います
なぜなら、この場合、勧誘方法自体が法令違反や不法行為等にあたるものと考えられますが、投資対象である上場企業やその株式は実在しており、投資として一応成立するからです

投資詐欺の中核は投資対象が実在しないのに実在するかのように装うことにあり、勧誘文言は、投資詐欺のよくある手段ではあるものの、投資詐欺自体とは区別した方がよいでしょう

不当・虚偽の勧誘文言は投資詐欺を推認させる

とはいえ、「必ず儲かる」「月利5%」「元本保証」等の不当・虚偽の勧誘文言を伴うことは、投資ではなく投資詐欺であることを推認させる事情であることも、事実です

「必ず儲かる」「元本保証」「月利5%」は、投資の不確実性やリターンの実現可能性と整合しないうえ、以下のように、投資等に関する複数の法令に違反するからです

  • 出資法違反(1条・出資金の受入の制限)
  • 金融商品取引法違反(38条・禁止行為、38条の2、39条・損失補填等の禁止)
  • 金融サービス提供法違反(4条・説明義務、5条・断定的判断の提供等の禁止)
  • 消費者契約法違反(4条)

「投資は自己責任」、私の苦手な(嫌いな)言葉です

「投資は自己責任」は害悪でしかない

特に投資詐欺に関して、「投資は自己責任」を警句として使用することは、投資詐欺被害の責任を加害者ではなく被害者に押し付けることに等しく、大いに問題があります

「投資自己責任原則」とは

投資判断に投資対象の実在性は含まれていない

そもそも、「投資は自己責任」(投資自己責任原則)とは、投資者が、投資判断を誤り損失を被ったとしても、それは全て自らが負担するという投資における考え方を言います

投資者が投資判断において考慮すべきリスクとして、通常、価格変動リスク、信用リスク(倒産リスク)、為替変動リスク、カントリーリスク(国際情勢リスク)等が挙げられます

投資自己責任原則の下、投資者が投資判断において考慮すべきリスクの中に、投資対象となる事業や資産の実在性は、挙げられておらず、含まれるべきでありません

投資詐欺にはあてはまらない

投資詐欺においては、投資対象となる事業や資産は実在しておらず、事業や資産の生産性がなく、リターンの実現可能性がなく、確実に損失しかありません

投資詐欺は、最早、投資ではないのであって、損失について責任を負うべき者は、加害者である金銭取得者や勧誘者であり、被害者が損失について責任を負う理由はありません

「投資は自己責任」との言説は、投資詐欺において、被害者の被害申告を躊躇させて、加害者を跳梁跋扈させるだけで、警句ではなく、百害あって一利なしの言動・害悪です

「投資は自己責任」の主張は逆効果

投資詐欺において、勧誘者等(加害者)が被害者代理人弁護士の私へ「投資は自己責任」等と嘯くことがあり、俄然やる気・フルパワー・100%中の100%になります

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